キネマ☆キンボシ Vol.9 上映会、終了しました

歴史的建造物で観る名作映画 ~アレックス・コックス監督作『リベンジャーズ・トラジディ』

2024.6.30 Sun 10:00-, 14:00-, 19:00-(3回上映)

島根県松江市白潟本町 出雲ビル地下1F

本日の上映、無事終了しました。

たくさんの方にお越しいただき、ありがとうございました。

【お客様の感想】

・欲望のどうしようもなさを見せつけられた気がしました。理性では対応できないことを突きつけられた気がします。裁判もまともに機能しない。2002年の公開時より、今の方が現実とリンクする映画だと思いました。(50代・男性)

・エグい映像と煮え切らない感じで気持ち悪かった。音の使い方がアレックス・コックスぽくて好きだった。(50代)

・監督特集の視点で見ることが少ないので、面白く見させていただいてます。(40代・男性)

・いつも設定を掴むのに時間がかかるので、今後は先にあらすじを読んでおきます。(40代・男性)

・今回のコックス特集でいちばん弱い作品のように思いました。登場人物がぜんいん「軽い」と思うのですが、それが他の作品みたいに魅力に転じていない気がしました。あと、「タブサンピング」がどこで流れるのかと思ってずっと期待しながら見てしまった。(50代・男性)

【感想会にて】

・車の中に5兄弟が並んで座っているシーンがカラフルで、何というか可愛かった。音楽もよかった。

・登場人物がみんな個性的で憎めない感じだった。

・登場人物全員に感情移入できなかった。唯一母親が人間味があって感情移入しかけたが…

【主催者感想】

彗星が衝突してディストピア化したイギリス。不況で盛り上がるのはスポーツだけといわれるが、観客が熱狂するのは卓上のサッカーゲームである。

 衛星で世界を監視する権力者と、そのカメラを駆使してメディアを扇動、民衆を惹きつけるライバル。この作品に見て取れるテーマ「見るもの、見られるもの」は一貫している。監視者はカメラで見えることは分かるが、人と人の絆までは見ることができない。だから復讐者たちの繋がりは見抜けず、彼らは団結することができた(しかし見える見えないに限らず貧困から娘を売ってしまう母親もいた)。

 

 復讐計画はあり得ないほど順調に進む。これはおそらく意識されたご都合主義というもので、原作がそういう展開だからとかではなく、メディアのように受動的な情報の取り方に慣れてしまったせいか、能動的に情報を得ようとせず、深く考えることをしない権力者や民衆を描いているのではないか。

さらに第四の壁(舞台でいう観客側のこと)に話しかけることにより、皆が皆、道化を演じて(それすら意識しているのか分からないが)正気を保っているという悲劇性と、いつの間にやら作品を「監視」してを復讐劇という娯楽を求めている私たち観客がいることに気付かされる。

 最後は復讐ですらなく、兄がデュークとなったライバルに「正直者が報われる時代が来る」と言ったのを試すためか、あるいはただ生き延びるためか、事実を告げて彼を人質に取るが、その緊張が最大になった時に「あの結末」が訪れる。監視者デュークと同じく、観客は最後の最後で裏切られたのだ。 うわ言のように繰り返されるリベンジという言葉の果てに、彗星が衝突して大爆発が起こるシーンで幕を閉じる(ここのシーンを9.11の映像にしようとしたという逸話があるが、流石に冗談だと思う)。

 漫才のように「も〜アンタとはやっとれませんわ!」みたいなラストに笑ってしまったが、いかに人間が恨みあって殺し合いしても、所詮はちっぽけなもので天変地異は否応なく引き起こされ、結局最後は滅ぶのだというシニカルさを感じるラストでした。

 今回でアレックス・コックス特集は最後になります。パンク映画の鬼才といわれて久しいですが、今回のように、エグく描こうと思えばいくらでも描ける題材でもエログロ的表現は控えめで、実はかなり上品でインテリな作品を作る方だと思います(大体反権力的活動をしている人は知識人が多いですが)。同時に、前回特集したラング監督と同じく、世間的には過小評価されている気がするのが残念でなりません。